試論

恥さらしによる自我拡散改善法を中心に

2018-04-01から1ヶ月間の記事一覧

履歴書

朝、家を出るまえに母からきょうもできあいのもので済ませるようにと言われていたので、買ってきた。母はこのところ体調を崩していたのだが、やっとだんだんよくなってきている。 その日いっしょに散歩した小平さんは、景気のいいおじさんだった。ことある…

くつした③

これまですこしも気にしてこなかったが、脱ぎすてた状態の靴下のようになった僕に擦りあわせるようにして無理矢理果てた修一さんを真顔でながめているとき、これはさすがにまずいと思った。 数十分におよんではやくはやくとせかされた。仕事おわりなので疲れ…

くつした②

「ぼくは100%の日本人ではないですよ」と、韓国語訛りの日本語でいわれた。母音が激しくなまっているのですぐにわかりますよ、というのは失礼だと思ったので、あまりなにもいわないことにした。 すこし知っている韓国語で話しかけてみたが、すべて日本語で返…

くつした①

中学生のときに履いていた白い靴下をたんすのなかからひっぱりだす。修一さんは靴下に性的興奮を覚えるという。 はじめ、そのとき履いていた靴下の写真をとって送ったら「ちがう、そういうのではない」といわれた。ではどういうのがいいのかとたずねると、紺…

むきふむき

西田くんとは、ボランティア団体の初回の集まりではじめて会った。そのとき彼は僕のひとつしたの一年生だった。ガジェットに強くて、機械のことは彼にきけばだいたい解決するような、頼れる人だった。 サークルにも入っていなかった私は、学生の集団にまじる…

听得懂听不懂

単位のために中国語をとっている。 語学は好きだ。いろんな言語を学んでやろうと当然のように考えていたが、実際には必修の科目と開講時限が重なり、必修以外の外国語をとるのは物理的に不可能なのだった。残った選択肢は中国語しかなかった。 語学のクラス…

地獄

楽しいことがあったって、恋をしてたって、死にたいときは死にたいよ。俺なんてこのあいだも、ドアノブに長いタオルをかけて、U字型にしてそこに首をかけた。もういいかなって思って。でもドアが、ノブじゃなくてこう、したにがちゃんてなるやつだったから、…

蕎麦

すべてに色がある。 図画工作の時間に、絵を提出するのだが、色の塗られていないところがあるとリジェクトされた。「この世に色のないものはない」と先生によく叱られた。 たしかに。 母が具合が悪いからといって、看護をするのではなく、なるべくひとりにし…

真保くん

真保(しんぼ)くんと深原(ふかはら)くんが転校してきたのは小4か小5のころだった。 このふたりは、思春期の萌芽をまえにして静まりかえっていた火薬庫に撃ちこまれた銃弾であった。とくに真保くんは私ひとりの人間形成に少なからずひずみを与えるほどの熱い一…

人生

4,5歳のころ、母親は急に思いだしたように病院に行くといって僕の手をにぎった。どこも体は悪くないのになと思った。着いた場所は、記憶が正しければ皮膚科と泌尿器科が一緒になっているところで、性器周辺の皮膚に異常がある場合などに人々がやってくる病院…

床屋

近所にある理容店は、40年ほど前、若かった父がこの地に越してくるよりまえから、髪を切り続けている。うえの兄もまんなかの兄も僕もそこで世話になっている。 ながいあいだ老主人ひとりできりもりしていたようだが、あるとき、ほかの理容チェーン店で修行し…

クソプ

図書館で何冊も貸出し機やるのめんどくさいからカウンターでやってもらおーとか思ってお願いしたら「自動貸出し機使ったことないですか」って言われて(貸出し機がカウンターの隣にある)内心なんのためのカウンターなんだろうと責める気持ちはなく自然と思っ…

迎合する

最近会った人と話をしたとき、ものをよく知っている人で、私の提示した話題を広げたり転換したり収束させたり、コミュニケーションの難しい部分はなにもかんがえなくてもいいように会話をコントロールしてもらえて、すごく心地よかったことがあった。そうい…

メールを送る

バイトの採用担当者からの電話にでられず、留守番電話メッセージが入っていた。 「ご案内事項がございます。ご都合よろしければ折り返しお電話ください」 とのことであったが、それとほぼ同時にメールも送られてきていて、そこには今回の募集は応募多数のた…

前立腺④

施術が済んだということで父に会いに行くと、別の部屋に収容されていた。痩せ細った体に薄い毛布が丁寧にかけられ、腕や脚のかたちが浮き上がって見え、まるで安置されているようだった。 しばらく「体が動かない」とか麻酔の実況をしていたが、また寝たり、…

前立腺③

手術のあいだはラウンジの窓のひざしのあたたかいところで母とジュースなどのんでくつろいでいた。 病院というのはそこらじゅう、とにかくあたたかくしてある。免疫力をたかめるためか? 携帯電話で話す暗い声がずっと聞こえていた。テレビのまえに座ってい…

前立腺②

そのほかにも病院でのほどこしはあまりよいものではなかったらしく、父はあとあとこころよくなかったようなことを評した。入院中の世話をしていた母によると、父は出先での例にもれず非常に態度が悪かった、それで医者や看護師らも仕事とはいえ不快だったの…

前立腺①

大学に5年目の授業料を納入した。父が働いた金である。 今日は風が吹いて、銀行まで自転車をこぐのも不自由なほどだった。彷彿するものがある。 関東でたぐいまれといわれるほどの積雪が記録された日があった。 4年前のその雪の日というのが、入学することに…