試論

恥さらしによる自我拡散改善法を中心に

くつした③

 これまですこしも気にしてこなかったが、脱ぎすてた状態の靴下のようになった僕に擦りあわせるようにして無理矢理果てた修一さんを真顔でながめているとき、これはさすがにまずいと思った。

 

 

 数十分におよんではやくはやくとせかされた。仕事おわりなので疲れているのだろう。はやくおわりにしたい。ぼくもはやくおわりにしたい。しかし、せかされればせかされるほど、けいとのくつしたをたらいのなかでえんえん水あらいしているようなやるかたない醜態を演じることになる。

 

 するどい無力感。もみこすられすぎてひりひりする場所に、液状化した彼の熱がそそがれ、しみた。いろいろな不安があたまをよぎる。それでももっとも強い不安はぼくはこういうことを最後までしおおせないのではないかということについてだった。人間として大事なものの欠陥にまたひとつ気がついた。

 ごめんなさいと謝りながら初めて自覚したが、ぼくは毎回のようにごめんなさいと謝っていた。いつもかならず、だれといても、なにかしらすれちがっていてかつそれは常にじぶんのせいだった。

 

 

 

 

 最寄りの〇〇線の終電はとっくに逃していた。そんな気がしていた。遅くまで勤めて疲れているひとに夕食を出してもらい、一時間近く神経の通っていない植物を撫でてもらい、あげく駅の方向がわからないなどとはいえなかったので、一応形式的に心配してくれた彼には大丈夫といって部屋を出て、道も知らないのに適当に歩きはじめた。1キロ離れた駅からなら××線が出ているから、走ってそちらに間に合えばいい。

 

 大学は渋谷のほうにある。あちらよりよほど、こちらがわの街のほうが東京という感じが好きだなどと思いながら、ぼんやりと歩いた。

 彼と待ちあわせるあいだに薬屋で買ったいろいろな道具が、いまになってかばんのなかで急にかさばって、存在感を主張してくる。果物のかたちをかたどった樹脂のなかに、清潔な薬液がみたされ、揺れている。それが箱のなかにいつつ、かわいらしく整列している。捨てたい。

 グーグルマップの助けがなければ明治通りを逆走しているところだった。車すら運転できない無能なので道の名前がわからない。そのしくみすらよくわからない、あたまのいいだれかが作った機械のおかげで、無事に終電に間にあった。

 だれかの運転する電車にのり、だれかが発明したホームのエスカレーターをおり、親の金で買った定期を自動改札機におしあて、だれかが敷いた道をあるき、だれかが灯している街灯にまもられながら、だれかが建設した築50年のアパートにかえる。

 だれかが編んだくつしたをぬぐ。

 

「電車乗れた?」

修一さんからのLINEだった。あそこをあとにしてから一時間近く経っているが、まだ起きているのだろうか。早く寝たほうがいい、あすも仕事なのだから。あなたは

「乗れました!😊 もう家に着きましたよ~✨✨」

「また、会いたい」

やはりこのひとは靴下が、靴下だけが好きなのだ。たとえ脱いだ状態の、中身のないただの袋状のぬのきれだとしても。

「はい! ぜひ~✨✨💕🌠」