舞浜駅南口イクスピアリ前の喫煙所は夢と現実の境界という感じで、いつまでも眺めていられると思った。せまる終電を追って走っていく人、おそろいの服を着て歩いてゆくカップル、彼氏が煙草を吸いおわるのを待ってる彼女、その逆に彼女待つ彼氏、覚めたくない夢、でも夜の夢の国はちょっと、一日中歩きまわって疲れているから悪夢っぽい。疲れると無口になるので、ただ浦安の海風に吹かれてたたずむだけになってしまう。ぼくたち3人も、ずっと風に吹かれていた。
あの国の門は10時で閉ざされるわけだけど、その時間を過ぎてもずっとなかにいた場合はどうなるんだろう。ほんとうは昼間キャストが見せるような物語の住人のような反応をしてほしいけれど、それをやっていたらそれ見たさに居残る人とかが出てきてしまうから抑止にならない。たぶんものすごく現実的に「閉園のお時間です」などと言われるに決まっている。
ほんとうになにを話すでもなく、ほとんど打ち付けるような暴力的な夜風にもまれながらじっとしていた。そろそろ帰りますかとSさんが言ってからも一時間くらい座っていた気がする。ふたりはなにを考えていたんだろう。
帰りの電車は、ぼくは千葉方面、ふたりは東京方面。ホームをはさんで対称に電車がやってきて、ぼくたちは手を振りあって別れた。電車に乗りこんでから振りかえったら、向かいの電車からふたりが手を振っていたので、振りかえした。ドアが閉まってもずっと振っていた。電車が走りだしてもずっと振っていた。 ふたりがとてもカワイイだったので、ぼくもカワイイになれた気がした。
スモーキーターキーレッグ
高校一年のクリスマスに、中学時代の部活仲間たちに誘われて来園したときが、物心がついてからほとんどはじめての入国だった。高校生のときは死にたかったので、なにを見ても心動かされることはなかったのだけど、あのときはまだこの国はきらきらしていた気がする。ぼくの目にも魔法が見えていた!
仲のよかったMちゃんが口につっこんできたスモーキーターキーレッグがしょっぱくておいしかったのを思い出していたところ、Sさんが食べたいというのでみんなで買って座って食べたんだけど、信じられないくらい食べにくくて自分の食べてる姿がほんとうに醜くてショックだった。
すずめ
すずめの数が全国的に減っているというはなしを聞いたことがある。たしかにあまりすずめを見ない気がするし。
舞浜駅に降り立った瞬間からすずめの鳴き声が聞こえた。ここにはすずめがたくさん住んでいる。夢の国内にもすずめがたくさんいて、
しかも人間になついているのだ。あのすずめが、人が近づこうものならすぐ飛び立ってしまう常に遠くにいるあのすずめが、足元をぽんぽんと跳ねながら、落ちているポップコーンのかけらをついばんだりしている。まるくてちいさくてかわいい。
そして、あとから気がついたのだが、あの国にはすずめのようにかわいい鳥以外の鳥がいない。からすやはとなどの道端によくいる鳥がいない。すずめが住めるくらいなら、かれらにも住みよい場所であるはずなのに。
重大なことに気づいてしまった気がするが、あまり深く調べたりしないようにしたい。あのすずめは代々あそこに暮らしているすずめなのだ。からすやはとは都会に住みたいから町にいるのだし、すずめは夢をみたいからあの国に永住しているのだ。それだけのことだ。たぶん……