あした梅酒作らない? と誘われて、ほんとうに梅酒を作るために上柳の家に行った。そのまえに差し入れのピノと、自分のぶんのピノと、手を拭くためのウェットティッシュをコンビニに寄って買っておいた。
梅酒の作り方
青梅はかわいい。
上柳はいつも「勝手に入ってきて」とLINEしてくる。そのとおりに古いアパートの一室の玄関を勝手に入っていくと、彼はすでに②ヘタをとるにさしかかっていた。
そのまえにピノを食わせた。融けてしまうからだ。自分のぶんは買ってあるので全部上柳にあげるつもりだったのに、結局3粒ずつ食べた。
ウェットティッシュで手を拭いてから作業に加わろうとおもい、ウェットティッシュの包装を開けてから気づいたのだが、詰替え用を買ってしまっていた。130枚入りとか書いてあるからおかしいなとは思ってはいたが、都合の悪いことに気づくとなかったことにしたがるのが脳だった。
一枚だけ丁寧に取り出すと、あとの129枚はビニール袋のなかに入れて、くちをきつく結んだ。これで乾燥せずにまた使えるとおもう。
ヘタをとる作業は想像していたより地味だった。球体のまんなかにぽつんと、控えめな突起がある。そこから割れ目のようなものがつづいていて、つるんとしてやわらかくて、にこ毛が生えていて、清らかな薄蒼色をしている。青梅はかわいい。
上柳は梅に傷がないかどうかをしきりに気にしていた。傷がある梅を使うとうまくできないのだという。ダメな梅は案外多くて、十数個くらいがはじかれて、はしっこに追いやられていた。梅干しにすればいいんじゃないかと提案するまえに、上柳の手によって生ゴミのなかに捨てられていった。
ヘタをとったらあとは瓶のなかにごろごろと梅を敷きつめるだけ。椅子に腰かけたまま、容器を股のあいだにおいて材料をそのなかに放る様が御伽話のトロールっぽくて面白かったので写真をとった。
えごま
上柳の家に行くとご飯を食べさせてもらえる場合がある。春に来たときはたけのこご飯に伽羅蕗(きゃらぶき)が饗された。その日はえごまの葉のキムチと自家製の大葉味噌がふるまわれた。
帰るときに突然タッパーにすこしずつそれらを入れて、「みんなで食べて」と、上柳は私に手渡した。みんなってだれ。
家に持ち帰って「デブにもらった」と言ったところ、うちの両親はこういう食品が大好きなのでそれはそれは喜んで食べた。特に大葉味噌は白飯によく合うので歓迎された。
次に出勤日が重なるときにお返しするようにと、母から鯖の缶詰を託された。タッパーは洗って返したが、えごまのにおいは何度洗ってもとれなかった。
後日、あの日家に帰ってすぐ冷凍庫に入れておいたピノを食べようとわくわくして開封したら、梅酒を作っているあいだ室温のままおいていたせいで完全にとけて輪郭を失い、小さな箱のはしっこに溜まり、その状態で再氷結していた。ピノのピノとしてのアイデンティティはあの形なのだ。青梅は青梅として、えごまはえごまとして、上柳は上柳として生まれたのだし。